「お前さんの瞳にはどう映る?」
「泣きたいくらい、綺麗に。」
【 碧に産まれた麗しき君にありがとう
】
肩の向こうから投げかけられた、じんわり耳に馴染む声に、僕は振り返って微笑んだ。「そうか」と漏らしながら、飄々としている彼にしては稀有な苦々しい表情を、心の中でほんの少し驚きながら、肩を竦めながら尋ねてみる。
「貴方は綺麗だと思いませんか?」
彼は、明るい茶の柔らかそうな髪を揺らして、元来身についた優雅な身のこなしで、す、と僕の左側へ滑り込むと、展望室に広がり星の光を取り込む硝子窓に凭れ、床に向かって嘲笑にも似た吐息を吐き出した。
「中身をへつらうように、見かけだけは、な。……俺と似てるぜ。」
ふわ、と鼻に届いた芳醇で濃い香りに、僕が「飲んでたんですか」と問うと「少しだけな。頭ははっきりしてる」と、ぽつり、呟いた。
またこの人は1人で何かを抱えているのかなと、ぼんやり気づいたけれど、その時の僕にはそれを明らかにする勇気はなかった。
薄闇の中前も見えず、覚束ない足取りでもがきながら進んでいる僕には、彼の引き摺る荷物を分かち合って持つ自信がなかった
――
なんて、謙遜は、つまり言い訳だってことも知ってる。僕は、ただ、彼の心に近づいて拒否されることだけが、怖かったんだ。
いつになっても意気地なしの僕は、核心には触れまいと試みながら、それでも精一杯彼への言葉を選んだ。
ねぇ、ハレルヤ。不思議だけど。
何だか、今。彼に、伝えておかなければいけない気がしたんだよ。
「ええ、確かに。」
頷きながら口を開いた僕に、床の隅に落とされた視線はそのまま、彼の柳眉が、ぴく、と微かに反応を返した。
「似てますね。貴方の綺麗な瞳の色も、涙も怒りも愛も喜びも全部抱えている中身も合わせて。」
そして、眉尻を下げて、努めて明るく笑ってみせた。
彼は僕より生きている大人だったのだけど。赤ん坊が母親の表情をそっくりそのまま映して笑うように、僕が笑うことで彼の顔を覆う陰も掃ってしまえはしないだろうかと。
そんな馬鹿げたことを考えながら、努めて明るく笑ってみせた。
笑った僕の頬に、涙が1つ。ぽろりと零れた。
どうして、人は。
不安に震えて哀しくても、笑えるのかな。
愛を胸いっぱいに抱えて嬉しくても、泣けるのかな。
「だけど、僕は貴方を産んだあの星が好きだ。」
あの星に似てる、貴方が好きだよ。
彼は形のいい紅い唇を閉じることも忘れ、瞼を大きく開いて、それから、ほろほろと皮が剥がれ落ちるように表情を崩した。
「ああ、ああ。そうか。」
彼はすっかりいつもの調子で僕の後ろ頭をくしゃりと撫ぜる。
「悪い。柄にもなくしょぼくれた所を見せちまったな。」
「僕はいつだってしょぼくれてますから。」
しっとりと冷たい革が僕の頭から頬、顎へ滑り、銀灰色と碧色が絡まった。
彼はそっと触れるだけのくちづけを落とし、
「さーて。元気貰ったし、そろそろ行くか。」
僕から離れ、ううん、と呻きながら小さく伸びをすると、身体を反して、入ってきた扉の方へ爪先を向けた。
「……あ。」
それは、目眩のようなものだったのかもしれない。
僅か一瞬、彼の輪郭が陽炎のようにゆらりと揺れて、今にも消えてしまいそうな錯覚を覚えた。
気がつくと、僕は彼の背を追い、掌の中に柔らかい革手袋を包んでいた。
「アレルヤ?」
「ありがとう、ございます。」
こんな不器用な僕の言葉に笑んでくれて。
彼は、振り返らず、手をひらりと振って背中で微笑んだ。
あの日、地球を睨めつけた彼の本心を聞かなかった自身を、僕は、後悔はしないけれど。
少しだけ。少しだけ。
意気地なしだった僕を、恨めしくは、思うんだ。
「ありがとう
――…ごめんなさい、ロックオン。」
笑った僕の頬に、涙が1つ。ぽろりと零れた。
〔 fin 〕