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電子化された熱

僕と君の熱で、電子コードも焼き切れてしまいそう。
真っ暗な無重力の海の中、君と2人、どこまでも堕ちてゆく。
溺れて
溺れて
溺れて
目を開けると、ああ、流星群が嗤ってる。


【 電子化された熱 】


「…ッ…んぁ…ぁッ」
「はぁ……ルヤ…、アレルヤ…」
「ゃ…ッだ、め……ぁあ…ッ…ぁ」
規則的なリズムを奏でる律動と乱れた呼吸。
小さな部屋の中で絡み合う肢体。
世間の喧騒から隠れるように、木々に囲まれて、ひっそりと設けられた中継基地の一室で、ロックオン・ストラトスとアレルヤ・ハプティズムは、わずかな2人きりの時間を惜しむように体温を分かち合っていた。
共にいつ命が果てるとも知れない戦場に身を置くからこそ、1度1度が、かけがえのないくちづけに、この上ない熱になる。
「…んんぅ…」
噛みつくように激しく唇を貪られ、アレルヤは、自身の全てを吸い尽くされてしまいそうな錯覚さえ覚えながら、与えられる快楽に身体を震わせた。
獰猛な肉食獣のようにしなやかな筋肉を纏った背中に、アレルヤの爪が食い込む。
ロックオンには、その痛みさえも愛しく思えた。
(お前の存在を、俺に刻み込めばいい)
「は…たまらないな……、もう…イ」

―― ビー ビー ビー ビー …―――

ロックオンの限界を告げる吐息を遮るように、機械音が鳴り響く。
「ちッ……なんてタイミングだよ。」
「…はぁ…は…、まったく。けど…スメラギさんからの連絡には出ないと…ほら」
苦笑するアレルヤに催促され、ロックオンは呼吸を整えながら、恋人の潤んだ瞳に軽くくちづけ、火照った体を離した。

「ミッションよ。次は宙で。至急準備して向かってちょうだい。アレルヤ・ハプティズムにも伝えて。」
オンにした無線機から、絶対的な上司の声が、事務的に仕事を告げる。
「了解」
ロックオンは同じく事務的に答え、
「続きは終わってからだな。」
ふ、と苦笑いしながら、床に脱ぎ散らしたジャケットを肩にひっかける。
手早く身支度を済ませていたアレルヤは、立ち上がり扉に手をかけ、微笑んだ。
「ええ、また。」

シュンと音がして、背中の向こうで扉が閉まる。
「もう…。だから、そろそろ、スメラギさんから連絡が入るかもしれないって言ったのに。」
(いや、それを知っていて受け入れたのは、僕の方か…)
アレルヤは、行き場を失った熱を吐き出すように、小さくため息を吐き、愛機に向かった。

* *

今回の仕事は、至極簡単なものだった。早々に片づけそのままプトレマイオスに着艦すると、愛機に通信が入った。ロックオンからだ。
「無事終わったか?」
「ええ。そちらは…?」
ミッションを終えて彼の声を聞くと、本当に安心する。これが、生きている実感というのだろうか。
そして、同時に、身体にくすぶり続ける熱を呼び覚まされる。
(僕は、まるで、パブロフの犬だよ)
「終わって帰ってる…と、言いたいところなんだけどよ。次の単独ミッションが30分後に入っちまったんだよな。」
「カエレナイ!カエレナイ!」
「そう、ですか。」
任務なのだから仕様がない、と思いつつ自らの顔が曇るのを感じたが、心に反して、身体の熱は冷めるどころか、彼の声を着火源に、身体中に燃え広がるのを止められない。
(こんな…ッ いやだいやだいや…)
自分のはしたなさに、戸惑う。
「そこでだ。次のミッションまでの間に、さっきの続きをしようと思ってな。」
「え。」
ロックオンの予想外の言葉に、アレルヤは、はっと顔をあげ、目をしばたかせた。
「さっきの続き。しよう。」
通信相手の、「今日の晩ごはんは、フィッシュアンドチップスにしよう」というくらい、平然と口にされた提案は、アレルヤの思考回路を一瞬停止させるには、十分過ぎる程の衝撃を与えた。
「そんな、ばかなこと…。」
「だって、お前の今の顔、やらしいぜ。」
ロックオンは、口の端を持ち上げ、好戦的な笑みを浮かべ、画面の向こうから人差し指を突き出してみせる。細められたエメラルドがキラリと光った。
「思い出したんだろ、さっきのこと。」
「 …!」
アレルヤは、否定できない自分に、唇を噛んだ。
「でも、こんなところで…しかも、あなたは今ここにいないし…」
「離れていても、できるぜ。お前が協力してくれれば、な。」

(だめだ … )
こうしてまた、溺れる

「な、前開けて。」
「…やっぱり…、無理…・・・。」
「だーめ。協力、してくれるんだろ。」
包み込むように温かい声なのに、どこか有無を言わさぬ力で、アレルヤの心を押さえつける。ぎゅ、と握りしめた両手をゆっくり上げ、意を決したように深く深く呼吸し、パイロットスーツの前を肌蹴ていく。
趣味だというトレーニングの賜物か、引き締まり理想的なラインが少しずつ露わになるその姿は、画面越しにロックオンの網膜を刺激した。
「さっきのキスマーク、まだ残ってる。」
くく、と喉を鳴らして笑う男を、アレルヤは「あなたがつけたんでしょう」と上目遣いで睨めつけ、次の指示を待つ。
「また、つけてやるよ。俺のキスを指で追って。」


鎖骨
胸元 ――

ロックオンの吐息混じりのかすれた声に合わせて、アレルヤの指が自らの身体を弄る。瞼を閉じると、彼との行為が色を帯びて蘇り、鼓動が、呼吸が、速くなる。
そして、小さく赤く熟れたそこに手が触れた瞬間、アレルヤは「ぁッ」と細い声を漏らした。
「そこ、触られるの好きだよな。」
嬉々とした声で、歌を歌うようにリズミカルに、指示が続く。
「指を回して、摘んで。」
「あぁッ…ァ…ふ、ぁ…ん…」
右手が、自分のものでない他の生き物のように、身体を這い回る。
彼の触れ方を、一つ一つ思い返しながら、自らの身体を暴いていく、初めて覚えた快感。
アレルヤは、下腹部に感じるもどかしい欲望に、無意識の内に残りの手を伸ばした。が、ロックオンの声は、それをやんわりと阻止する。
「俺はまだ、下には触れてないよ。」
痺れるような気持ちよさに震えながら、うっすら瞳を開け、彼の許しを請う。
「触って欲しい?」
こくこく、と頭を振ると、ロックオンは意地悪く、「ちゃんと口で言って」と催促した。アレルヤには、すでに拒む気持ちの一かけらも、残されていなかった。
とにかく、溺れたい。彼との熱に溺れてしまたい。
頭の隅で、自分の理性なんてこんなに脆いものなのだな、と、ぼんやり思った。
「………さ・・・、触って」
「いいコだ。じゃ、下から、そう、擦り上げて。」
「んん…ッ……く、ぅん…ふ…あぁッ…あ……」
画面の向こうでは、相棒の小型汎用マシンにしばしの間制御を任せたロックオンも、アレルヤの呼吸に合わせて手をゆるゆると動かす。
回線を通して聞こえる、吐息に、おかしくなりそうな程ぞくぞくした。波間に鱗を煌めかせる人魚のように、自然と腰が揺れる。
「っ…んぁ…は…あッ…あッ…ぁあ…ッ…も……」
腰から下が快楽に麻痺して ―― とろとろに溶けて、なくなってしまったようだ。
シートが、ぎし、ぎし、と啼き声をあげた。
「アレルヤ…いい声……もう、イく?」
「あぁっ…ぅん…ッ…うん…」
「ッ…ん…、おーけい」
2人の吐息のシンクロが最高潮に達し、背を仰け反らせたアレルヤの脳裏に、真っ白な火花が散った。

愛とも惰性ともつかない行為。
繰り返し訪れる甘い甘い波に、何度も流されていく。

* *

「あ、そうそう。」
ミッションの報告をし、部屋をあとにしようとしたアレルヤは、戦術予報士であり、実質上、艦のトップであるスメラギ・李・ノリエガに呼び止められ、足を止める。
「通信機器は、適正な使用方法を。」
ふふ、と含み笑いをしながら放たれた言葉に、アレルヤは、見開いた瞳を、半開きになった唇を、閉じることも忘れて、立ち尽くした。

「…ハレルヤ……許せないよ…自分が。」


〔fin 〕

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